“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #4

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

周波数で考える曲作り。低音域、中音域に続き、今回は高音域です。

ここ10年、音楽における高音域の重要性が高まっています。
イントロを聴いただけで「この曲売れそう」と思わせる音質。それにはこの高音域が大いに関わっているのです。
そんな高音域の作り方について、これまでGarageBandで作ってきた曲で考えていきましょう。

高音域のアプローチ方法

周波数で音楽を捉えることに慣れてきた皆さんには、まずはこれまでに作ってきた音を聴いていただきましょう。
これまでの音:

前々回はキックの低音域を、そして前回はピアノとギターの中音域を調整してきましたね。
そして今回目指すのはこちらです。
今回目指す音:

どうでしょうか?視界が広々としていて、伸びやかな空間がイメージできると思います。
風通しが良く、キラキラしていて、肌触りの良い感触。
音楽のミックスやマスタリングという音作りは、弁当作りに例えられることがあります。限られたスペースの中に、整然と要領良く詰め込む作業。スカスカだと持ち歩いているうちに動いてしまいますし、ギュウギュウ詰めだと固くて食べにくい。
高音域は、弁当箱のフタを開けた瞬間に目に飛び込んでくる表面の部分に似ています。フタを明けた時の第一印象。表面が綺麗に均されていて、カラフルでフワフワしていると嬉しいですよね。
「イントロを聴いただけで売れそうな曲 = フタを開けただけで食欲が湧く弁当」なのです。

さあ、この中で高音域にはどういう音がありますか?

リズム楽器で言えば、ハイハットもしくはスネアの上の方の音ですね。
コード楽器で言えば、ピアノとギターです。
結論から言えば、これら全ての楽器を調整した結果が例2なのですが、特に重要なのはコード楽器のほうです。なぜでしょう?

リズム楽器は、音が鳴っている瞬間と音が無くなる瞬間があります。なので、高音域の周波数が「有る」瞬間と「無い」瞬間があるのです。つまり、思い通りの周波数を構成するためにコントロールできる瞬間とできない瞬間があるのです。

それに比べてコード楽器は、ずっと鳴り続けています。よって思い通りの周波数を構成するには適した素材なのです。

原音で作る高音域

では実際にどうやってコントロールすればいいのでしょうか?
これには大きく2つの方法があります。

1つは原音で作る方法、もう1つはエフェクトで作る方法です。
まずは原音で作る方法を、実際にやってみましょう。

まずはピアノから。これが、高音域を何もいじっていない音です。
これまでのピアノ:

この高音域をEQで持ち上げてみます。2500Hz以上の部分を6dB上げたものがこちらです。
適切にEQしたピアノ:

EQはこのようになっています。

まずピアノのトラックをクリックして選び、キーボードの「B」を押すと、Smart Control という表示が画面の下側に現れます。
(もしくはコントロールバーにある Smart Control ボタン[image_zine4-2-1.png]をクリックします。)
そこで「トラック」「EQ」を選ぶとこのような画面になります。右上の紫のEQが「ハイシェルビング」と呼ばれるもので、何Hz以上の周波数をどれだけ持ち上げるかを選ぶことができます。今回は2500Hz以上の部分を6dB持ち上げてみています。

次にこちらを聴いてみてください。
EQしすぎたピアノ:

いかがでしょうか?

こちらは1000Hz(=1KHz)以上の部分を6dB持ち上げています。そうすると、1000から2000Hz(=1Kから2KHz)の部分まで持ち上がっていて、少し邪魔に感じられます。

人間が言葉を耳で認識する時、主に1000から5000Hzあたりの音で判断していると言われます。
子音や母音が存在するのはその周波数だということです。逆に言えば、そこから下や上の周波数は、言語というより雰囲気だったり感情を読み取ったりするのに使っているということです。

つまり1000から5000Hzあたりの音は、ある意味「実用的な音」なので、そこが多すぎるとピーキーに感じられるのです。簡単に言えば、うるさいということですね。よく「痛い音」という表現されることがありますが、これはまさにこの周波数なのです。

今回は2000Hz以上を持ち上げましたが、これは楽器や弾き方によるので一概に何が正解かは言うことができません。強く弾いた音(=ベロシティの大きい音)は、痛い音が多いので、空気感を加えるためには相当高い音だけをコントロールしたほうが良いでしょう。

エフェクトで作る高音域

次にエフェクトで高音域を作る方法を見ていきましょう。

ピアノのトラックを選んだ状態で Smart Control 画面を開くところまではこれまでと同じです。
先ほどはEQを選んでいましたが、今回は Control を選びます。すると左に、マスターエコーとマスターリバーブというスライダが現れるので、チェックを入れてスライダを右に動かします。これによって残響音を増やすことができます。
エコーはカツンと跳ね返ってくる音、リバーブはふんわりと広がる音です。今回はリバーブをかなり多くしています。
リズム楽器にエコーをかけすぎると、リズムがぐちゃぐちゃになるので注意してください。

そしてここからが重要な部分です。今回のコラムで一番強調したいのは、このリバーブの音質を調整するという点です。

先ほどの Smart Control 画面の一番下にある「エコーとリバーブの設定を編集」をクリックしてみてください。

ここが少し分かりにくいのですが、「エコーとリバーブの設定を編集」するために、マスターに移動しています。GarageBandでは、マスターの部分にエコーとリバーブがあり、トラックからこちらに音を送ることでエフェクトをかけているのです。

ここで上部の「エフェクト」を選ぶと、エコーとリバーブが編集できます。この画面では、マスターリバーブを編集しています。今回はリバーブの種類を「Bright Long Verb」にしています。
さらに注目してもらいたいのは、リバーブの真ん中のつまみです。この「COLOR」というつまみは、リバーブの色合いを変えることができます。今回は思いっきり右に回して、一番明るいカラーにしています。これにより高音域のリバーブ成分を増やすことができるのです。

では音を聴き比べてみましょう。
明るいCOLORのリバーブがかかったピアノ:

暗いCOLORのリバーブがかかったピアノ:

どうでしょうか?
暗いCOLORのリバーブがかかると、中音域にも影響が出てきます。エフェクト成分によっても、全体の周波数が変わってくることが実感していただけたと思います。

同様の処理を、ギターやリズム楽器についても調整しました。
明るくすることがいつでも正しいことというわけではありませんが、今っぽい空気感の音楽を作る際のポイントのひとつであることは間違いありません。自分のトラックでも試してみてください。

さあ、今回の曲ではまだ、ベースの音をいじっていませんね。次回は、ベースとキックの関係について見ていきましょう。

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<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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