“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #6

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

周波数で考える曲作り。今回は、ミックスで迷った場合の解決法について考えてみます。

とは言え、これをこうしたら解決する、なんてオールマイティな方法があるわけではありません。
もしそんな方法があったら、それはそれでつまらないですよね。誰でも同じように解決できるなら、音楽の個性も無くなってしまいます。
でも、自分の作りたい音のイメージに近づけていく作業をする中で「踏むべき手順」のようなものは確かにあります。それはコンピュータでミックスするDAWならではのものです。

ここでは、迷った時に指標となるもの、そしてその際のコツについて話をさせてもらいます。

ラウドネスメーターの活用

音楽を作っている皆さんなら、ラウドネスという言葉を聞いたことがあると思います。簡単に言えば「音の大きさを数値にしたもの」です。
人間は、その時々の心のもちようによって、音の大きさをどう感じるかが変わってきます。それを数値化してくれれば安心ですね。

音量を計測するにはメーターが必要です。LogicやCubaseには純正プラグインが付属していますが、GarageBandには有りません。
iZotope社のInsight 2や、Waves社のWLM Plus Loudness Meterなどがありますが、有料のものがほとんどです。
そこでおすすめするのが、Youlean Loudness Meter 2です。これはフリーのプラグインでありながら、作業に必要な計測が可能です。

ラウドネスメーターをインストールしたら、実際に、これまで作ってきた曲を計測してみましょう。

まず左上の「Smart Control」ボタンを押します(ショートカットキーはBです)。
下に現れるウィンドウでマスターを選び、そのOutputに「Youlean Loudness Meter 2」を挿入しましょう。

音を再生すると、リアルタイムで計測が始まります。メーターの最上部にSHORT TERM、つまりその瞬間のラウドネス値が表示されます。ここでは-11.9LUFSですね。メーターによってはLKFSという単位で表示されるものもありますが、これらは同じものと考えてください。

その下にはINTEGRATEDの数値があります。integrate = 積分する、という意味ですから、これは再生してきた音を総合評価したものになります。基本的にはこちらを見ると良いでしょう。上の図では-12.1LUFSです。

さあ、ここで-12.1LUFSというのが、客観的に見てどういう値なのかが問題になりますね。これについては色んな捉え方があります。
例えば、テレビ番組であれば-24.0LUFSというのが守るべき基準でした。つまり-12.1LUFSなら大きすぎるということです。YouTubeではは-14.0LUFSあたりに上限があり、それを超えると自動的に下げられてしまうことになっているようです。Apple Musicにも-16.0LUFSという上限があると聞きます。

ただ、CDにする際のマスタリングでは、 もっと上のレベルにまで持ち上げられていることが多々あります。-10.0や-8.0LUFSという大きな音量であっても問題はありません。そして、そのように作られた音をYouTubeにアップロードしたほうが、真面目に-14.0LUFSで作った音よりも聴こえが良かったりする場合も無くはありません。ここが悩ましいところです。

ただ、ライブ会場など大音量で再生できる場面では、小さいラウドネス値で作った音のほうが伸びやかに聴こえる傾向にあります。それを考えると、-12.0あたりというのは様々な環境に適している値であるとも言えます。

ちらし寿司を綺麗に作るように

GarageBandは、音楽制作に不慣れな人でもだいたいの基準に収まるように設計されているようです。今回作っている曲では、各トラックの音量がほぼ0dBから-5dBあたりですが、全体音量はほどほどで抑えられています。

これが、違うDAWだと全然違う結果になります。例えばLogic Proであれば、各トラックの音量は-10dBから-20dBあたりで作っていくことが多い印象です。逆に言えば、Logic Proで各トラックの音量を0dBから-5dBにしていくと、音が飽和したようなゴチャッとした結果になるのです。

よく行われるミックスの手順としては、このようなものがあります。

①リズムとベースの音を整える
②その他の音のバランスを整える
③ボーカルをのせる

①で気持ちよく響いていた音が、ミックスを進めていくうちに、何が正解か分からなくなったことはありませんか?その時に見直してもらいたいのが①の段階でのラウドネス値です。

今回の曲で、ピアノとギターを除いたもの、つまりリズムとベースのみの状態を計測すると、INTEGRATEDが-13.0LUFSとなっています。

先ほどが-12.1LUFSですから、だいたい1ほど小さい値になっていますね。

ここで突然ですが、重箱にちらし寿司を作ることを想像してみてください。

ご飯や具が山盛りになっていると、蓋を閉めることができません。
最初に盛り付ける寿司飯の量は、重箱の上限を見ながら目分量で決めていますよね?上限からこれくらい下がったところまでご飯を入れる、というふうに。
①のラウドネス値は、その目分量のようなものです。今回なら最終目標ラウドネス値よりもマイナス1.0ほどのところで留めるべきだということが分かります。
重箱の縁すれすれまで寿司飯を盛り付けてしまっては、その上に具材をのせることができません。少な過ぎても、バランスが悪くなります。

リズムとベースで構成される「リズム隊」は、ちらし寿司の寿司飯のようなものであり、その音量レベルを適切に作ってやることが適切なミックスにつながる。そんなことを思い出して、ミックスを始めてみてもらえると良いと思います。簡単に言えば、最終姿を想像し、そこから逆算してリズム隊の音量を整えていくということです。

迷ったら全部を下げる

ミックスを進めていくと「この音をもっと聴きたい」「ここでこの音が盛り上がってほしい」という気持ちで、各トラックのボリュームが大きくなりがちです。そうすると、先ほど述べたような音が飽和したようなゴチャッとした結果になることが多いのです。これは本当によく起こり得る現象で「アゲアゲ競争」なんて言われることもあります。

そんな時おすすめなのは、全部のトラックをまとめて下げるという方法です。

これは、ラウドネス値に関わらず試してもらいたい手法です。とにかく重箱に余裕ができるところまでいったん下げてみる。そういう気持ちで下げてみましょう。

さきほどの曲で、全部を3dBずつ下げてみます。(GarageBandでは、ひとつひとつのボリュームスライダをいじるしかありませんが、Logic Proなど他のDAWであれば、シフトを押しながら全部のトラックを選んでやって一度にまとめて下げることが可能です。)

実際に3dBずつ下げてやると、この図のように-15.4LUFSになりました。
下げる前が-12.1LUFSでしたから、だいたい3ほど下がった結果になります。

dBとラウドネス値は、ほぼ同じ数値で上下する関係にあります。なので、ラウドネスを1下げてやりたければ、各トラックのdBも1下げれば良いと覚えておきましょう。

こうしてできた音を聴いてみてください。
各トラックのボリュームを下げる前:

各トラックのボリュームを3dB下げた後:

どうでしょうか?音像に余裕が生まれていますね。こうすることで、どの音が出過ぎているかのチェックがしやすくなりました。

自分が高層ビル街を飛んでいる鳥になっていると想像してください。ビルぎりぎりの高さを飛んでいると、どこにどんなビルがあるのか分かりませんね。そして自分がどこを飛んでいるのかも不確かでしょう。
そんな時、ビルを俯瞰できる高さまで上昇してみたらどうでしょうか?周りがクリアに見渡せて、全体像を把握できますね。ストリートビューから鳥瞰図に視点を移動して、頭の中に地図を作る感じです。
ミックスにおいても、音圧の中に埋もれているよりは、少し目線を引いて俯瞰することで得られるものは多いのです。地図を書くつもりでミックスを進めましょう。

また、トラックによっては、すでにボリュームのオートメーションを書いてしまっている場合もあると思います。

この図は、ベースのオートメーションをすでに書いた状態です。
メニューの「ミックス→オートメーションを表示(ショートカットキーはA)」でオートメーションを図のように表示させ、オートメーションのラインを選択しクリックしてやると、ボリュームの数値が確認できますので、これを見ながらオートメーションのラインを曲ごと下げてやると、ボリュームが変更できます。他のトラックのように、ボリュームのスライダ自体をいじっても変わらないのでご注意を。

余談ですが、dB(デシベル)のd(デシ)は、水の量を計るときのdL(デシリットル)のデシです。つまりデシというのは、B(ベル)の10分の1という意味です。
そしてベルは、電話を発明したグラハム・ベルの名前にちなんでつけられた音の大きさの単位です。

次回は、周波数と人間の体について考察した、アルフレッド・トマティス博士の説を紹介します。

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<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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