“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #7

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

周波数で考える曲作り。
これまでは、実際にトラックを作りつつ、周波数の扱いについて具体的な処理方法を考えてきましたが、今回は一般的な話で周波数について考えていきたいと思います。

とある学者が、音楽には3種類あると言っていました。身体で楽しむ音楽、心で楽しむ音楽、頭で楽しむ音楽、の3つだと。一番原始的なのが「身体の音楽」で、物を叩いたり引っ掻いたりした時の響きを楽しむもの。次に、感情を揺さぶるメロディやコードなどを楽しむ「心の音楽」。そして一番理知的なのが、音楽の構造などを使って遊ぶ「頭の音楽」だと、その学者は言っています。
うーむ、自分はこの考えに賛成できません。なんだか時代遅れな発想だと感じるのですが、みなさんにはどうでしょうか?むしろ、良い音楽はこれら3種類全ての楽しみ方ができるものだと反論したいところです。

周波数で考える曲作りは、何はさておき一番目の「身体で楽しむ音楽」を満たす考え方です。周波数ごとの響き、華やかさや迫力を身体で楽しむ、そのための発想方法です。
これについて、アルフレッド・トマティス博士という偉大な先人が、身体に注目した興味深い説を唱えています。今回はこれについて一緒に見ていきましょう。

アルフレッド・トマティス博士

トマティス博士はフランス生まれ。残念ながら、2001年に亡くなってしまいました。最初は発声について研究を始めましたが、その後は聴覚と心理にもその対象を広げていきます。

その研究成果は音楽療法の根拠にもなっています。例えば、モーツァルトの音楽を聴くことが心と体の癒しになるとか植物がよく育つというような療法の、学術的な裏付けとして。この話は、録音状態や再生環境で変わってくるのでここでは取り上げません。

興味深いのは、聴覚と心理の両方を研究対象にしたことです。心理学の領域でよく扱われるのは夢や無意識などで、それらは言葉により伝えられるものです。そこに聴覚が持ち込まれることはありませんでした。博士は聴覚と心理の両方を研究対象にしたので、違うアプローチが可能だったのです。
だからと言って、高い音を聞くと明るい気分になる、というような単純な話ではありません。
「高い音は脳を刺激して癒しの効果がある」みたいなことがまことしやかに言われることがありますが、逆に、高い金属音が緊張感をもたらして気持ちも体もこわばらせるなんてことは多々あります。

ポイントは、聴覚が体に影響し心理に作用し得るということ。空気の振動でしかない音が、その振動の速さによって異なる影響を身体にもたらすということです。面白くないですか?
しかも、それが具体的に身体のどの部分であるかを明らかにしたのです。博士はそれを背骨で説明しています。

背骨と周波数

音は空気の震えとして耳に入ります。それが脳に信号として伝わって、人は音と感じることができます。これを聴覚というのであれば、それは頭の中でしか起こっていないことですね。
でもコンサート会場に行けば、迫力ある低音を腹に感じるなんてこともあります。つまり、聴覚は頭の中だけのものではないのです。

では、博士の言う具体的な身体の場所を見ていきましょう。

簡単に言えば「低音域は腰、中音域は胸、高音域は首から上」ということです。なるほど、思い当たりますね。先ほどの、腹に響く低音というのはまさに腰の部分。頭が痛くなる高音という言い方もします。ということは、胸を締め付けるメロディには中音域が必要ということなのかもしれません。

博士はこれらの場所を背骨に対応させます。

かつて尻尾が生えていたであろう尾てい骨が、250Hzあたりの低音域。
腰の骨が500Hz。
その上の胸あたりで1,000Hz。
首が2,000から3,000Hz。
頭蓋骨が4,000Hz以上。

どうでしょう?言われればそんな気がしますよね。
ここで背骨を持ち出したのが、博士の素晴らしいところだと思います。つまり、脳のある頭の部分と胴体を繋いでいるのが背骨なのですから。
かつての原始的な動物には脳がなく、内臓が脳の役割を果たしていたという話を聞いたことがあります。今もその感覚は残っているので「腹が立つ」「腹に据えかねる」「はらわたが煮え繰り返る」「腑に落ちる」のような表現があるのでしょう。そう考えると、脳と内臓を繋ぐ背骨が重要な部分であるのは当然ですね。

曲の制作に応用してみる

では実際に聴いてみましょう。サイン波でドの音を順番に聴いていきます。

C3:約250Hz (261.626Hz)

これはピアノの真ん中のドと覚えてください。ピアノだとこういう音です。

博士は尾てい骨と言いますが、個人的には、それよりも高い位置な気がします。

C4:約500Hz (523.251Hz)

どうでしょう?腰よりもみぞおちくらいでしょうか。

C5:約1,000Hz (1046.502Hz)

胸というか、胸から喉にかけてに響きそうな音です。

C6:約2,000Hz (2093.005Hz)

はい、これは確かに首ですね。

C7:約4,000Hz (4186.009Hz)

うーん、首の後ろのほうな気がします。

C8:約8,000Hz (8372.018Hz)

これはこめかみくらいでしょうか。

以上は、自分が個人的に感じる感覚であって、人によって違うはずです。
高い音を眉間に感じる人もいれば、鼻の奥に感じる人もいます。サイン波ではない音であれば、感じ方も違うでしょう。

周波数を体のどの部分で感じるかを知ることは、曲作りやミックスにおいて非常に役に立ちます。EQをいじる際に、自分の体を意識すると、より身体的に周波数を扱うことができます。

覚えるべきなのは以下の周波数です。
■100Hz:キックの重要な部分 (“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #2を参照)
■250Hz:ピアノの真ん中のド
■500Hz:ピアノの真ん中から1オクターブ上のド
■1,000-5,000Hz:言葉を聞き取るのに使う部分 (“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #4を参照)

これらの音が自分の身体のどのあたりに相当するのか意識してください。
さらに今回聴いた2,000Hz(C6)と4,000Hz(C7)も意識できると良いですね。

自分が制作を進めている時に、超低音が存在すると超高音も足したくなります。また超高音があるのに超低音が無いと落ち着きません。この事象はきっと博士の言う身体性で説明できるものです。きっと身体がバランスを求めているのだと思います。

バランスが悪いとどうなるか。高音に偏った音は、頭が前のめりな気がします。低音に偏った音は、腰が前に出ているイメージです。

クラシックのオーケストラの音に慣れている人が、今のポップスを聴くと頭が痛くなるというのも、この身体性で説明できます。オーケストラの音像は、かなり中低域に寄っているものが多いのです。つまり、胸の位置で感じる音がたっぷり含まれているのです。今のポップスの標準から言えば、ハイとローが足りないとも言えます。ポップスの音は彼らにとって、頭に響く音が多すぎるので痛くなるのでしょう。

仕事でオーケストラの音をシミュレートして作る際、自分は本来の音像よりもハイとローを多くします。なぜなら、聴く人は今のポップスの音に慣れているので、本来の中音域が張り出した音像だと物足りなく感じるのです。胸だけでなく、ちゃんと背骨全体に響く音像でないと満足できないのです。

みなさんも心当たりはないでしょうか?
身体で周波数を意識するという感覚は、きっと今後の制作にプラスとなるに違いありません。ぜひご活用ください。


<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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