“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #9

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

周波数で考える曲作り。今回からは、読者の皆さんから寄せられた質問に答えていきます。
まずは第一回目。こんな質問が届きました。

「各音域の音像を固くしたり、丸くしたりするにはどうすれば良いですか?
 コツがあれば教えてください。」

なるほど、これはDTM中級者の観点ですね。そして、周波数に大きく関わる問題です。
では早速、これについて考えていきましょう!

耳に痛いってどういうこと?

質問にあった「固い」音について考えてみましょう。「硬い」や「堅い」のほうがイメージできるかもしれません。物体であれば、それぞれの構成要素が密にくっついていて、ちょっとやそっとではバラせない様子です。お菓子であれば、雷おこしのようなもの。米粒が糖衣でコーティングされて固まっているので齧りにくく、食べると上顎が痛くなったりします。

これが目に見える物体ではなくて、目に見えない音になるとどういう状態でしょうか?
耳に痛い音、という表現があります。耳に入ると痛い音、それは固いからです。そう、固い音は耳に痛いのです。

人間が言葉を耳で認識する時、主に1000から5000Hzあたりの音で判断している、というのはこのコラムの第4回目で書きました。ということは、1000から5000Hzあたりに、言葉を判別する周波数要素が存在するということです。ひそひそ声で喋る時を想像してください。声帯を震わせないでウィスパーで喋っている時が、まさに1000から5000Hzあたりの音で言葉を発しているのです。
耳元で囁かれたらくすぐったいですよね。これが大音量だったらどうでしょうか。非常に不快です。逃げたくなります。耳が痛くて耐えられない状態が想像できると思います。

例えば、アコースティックギターの音色で試してみましょう。
Apple Loopsに、こういうギターの音がありました。

これをイコライザーで周波数をいじってみましょう。
GarageBandのChannel EQにはこんなプリセットがあります。

これは「Acoustic Guitar Bright」という、ギターを明るくするプリセットです。確かに1000から5000Hzあたりが持ち上がっていると同時に、その上下の部分も持ち上がっています。
ちなみに100Hz以下は大胆にカットされ、200Hz部分も削られています。これは参考になりますね。

音はこんな感じに変化しました。

この部分を更に聞き分けるため、この緑の点を持ち上げてみましょう。

Gainが24dBまで上がっています。

音はこのようになります。

ピックがギターの鉄弦に当たる音が大きくなったような音ですね。確かに固いです。

更に変化させる周波数帯の幅を狭くすると、周波数の変化がよく分かるようになります。

①緑の帯の横をつまんで、幅を狭くします。そうすると右下のQ値が大きくなります。
②緑の点を左右に動かすとFrequencyの値が変化し、どういう音を扱っているのかがピンポイントで分かります。

ちなみに丸い音を作るプリセットとしてこういうものがあります。

これは「Low Focus Guitar」というプリセットです。
1000から5000Hzが削られているのが分かります。

音はこのようになります。

痛い部分が少なくなって、ふくよかな音になっていますね。

他にもピアノのプリセットとして「Piano Bright」や「Warm Piano」などがあります。5000Hz以上のところを大胆に上げたり下げたりしているので参考にしてみてください。シンセの音にも有効ですね。

叩いて潰す

コンプレッサによる圧縮も、音の固さに変化をもたらします。

例えば「Acoustic Guitar」というプリセットであれば、こういう設定です。

音はこのようになります。

重要なのはアタックの遅さです。レシオが3.2と、それなりな圧縮比率でありながら、コンプレッサがかかり始めるタイミングが80msと遅いのです。なので、音の立ち上がりのガッツのある部分が強調されています。逆にアタックが速い設定では、音が鳴るとすぐにコンプがかかりまろやかになります。

また、真空管系ビンテージコンプであれば、Waves社のRenaissance Compressorが代表格です。温かみがあり、かつとても自然なコンプレッションを得ることができてお勧めです。

周りの部分も大切

固い音というのは、空間における音の「存在感」の指標です。ですから、空間系のエフェクトも音の固さに関係してきます。

リバーブが増えれば、音の輪郭はぼんやりしていき、奥の方に存在するように感じます。よって丸い音に変化していくと言えるでしょう。
またリバーブ成分の周波数が中低域に偏ったものであれば、これもまた丸い音に近づくことになります。

つまり、音を柔らかくするには
・リバーブを増やす
・中低域の多いリバーブを使う
という方法を用いれば良いのです。

実際に楽曲をミックスする際には、EQを「アクセル」として、リバーブを「ブレーキ」として使っているような感覚があります。
音を前面に出してくるにはEQで必要な部分を持ち上げ、音を奥に下げたい時にはリバーブで馴染ませる。そういう使い方です。
またこういう際のEQは、常にコンプの後でかけます。そのほうが周波数を思い通りにコントロールできるからです。(逆に、普段はEQで要らない部分を削ってからコンプで整えると、余分なものにコンプレッサがかからなくて安心です。)

今回の考え方を図にまとめるとこのようになります。いかがでしょうか。

次回もまた、みなさんから寄せられた質問に答えていきます。


<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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