“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #10

コラム

作詞・作曲・編曲家の谷口尚久です。

周波数で考える曲作り。今回も読者の皆さんから寄せられた質問に答えていきます。
第二回目はこんな質問です。

「イコライザーをいじる際にどの音域から手を付ければいいでしょうか?
 また何を基準にすればいいのでしょうか?」

まさに周波数の話ですね。今回はこれについて考えていきましょう!

まず何が気になるか

弁当箱のおかず、ウインナーソーセージが長すぎて蓋が締まりません。そんな時はソーセージを取り出して半分に切り、もう一度詰め直します。元の場所はちょっと狭いですが、周りのおかずに場所を譲ってもらい、キュッと押し込んで完成。

周波数問題だって同じことです。蓋を閉めたいのなら、蓋が閉まらない原因をまずは解決しましょう。出っ張っていて気になる部分、飛び出していて他の音との馴染みが悪い部分です。

歌ものの場合、よくあるのはピアノやギターの出っ張り。ボーカルを邪魔してしまう帯域を調整しましょう。2000Hzから4000Hzくらいのところでしょうか。
あとはスネアの耳に痛い部分の周波数。スネア単体で聴くとカッコいいのですが、他を邪魔してしまっていることがよくあります。その部分を削ってみましょう。

とは言え、何が気になるのかはあなた次第。あなたが気になる部分をまずは修正しましょう。どこが気になってしまうのか、イコール、あなたはどこに拘るのか。それが個性です。

セオリー通りに

あなた次第ですから…などと、突き放したようなことを言ってしまいました。反省。
気を取り直して、少し一般的なやり方を考えてみましょう。

まずはセオリー通りに順番を追って作業します。
“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #6」に書いてある通り、最初にやるのは①リズムとベースの音を整える、です。もちろんラウドネス値を気にしながら。

いったん、この時点で「気持ちの良い音、カッコいい音、バランスのとれた音」を目指しましょう。先ほどは、他を邪魔する部分を削ると言いましたが、それは後の作業。まずはふわっとご飯を満遍なく盛るイメージです。周波数を満遍なく使いましょう。ただし音圧を稼ごうとしてギチギチには詰め込まないこと。これが重要です。
ギチギチに詰まっていないのですから、それぞれの音色は単独でカッコいいものでかまいません。なので、曲づくりとしてのイコライザーという観点は必要ない段階です。イコライザーを使うなら、それぞれの音色がカッコよく響くためのものと考えて問題ありません。

この時に気にしてほしいのは「“周波数”で考える曲づくり!with GarageBand #5」に書いたベースとキックの上下関係です。曲の方向性により、ベースとキックのどちらが上になるべきかを意識してください。迷ったら、キックを下に持ってきましょう。

「イコライザーをいじる際にどの音域から手を付ければいいでしょうか?」というご質問に関しては、まずこれがセオリーとしての答えです。曲づくりのためのイコライザーいじり、第一歩です。

この後は②その他の音のバランスを整える、に移ります。先ほど触れたピアノやギターがこれに当たりますね。これも、ボーカルが入ってくるまでは、それぞれが気持ちよく響くイコライザーいじりでかまいません。

逆に言えば、ボーカルが入ってくるまでは、曲づくりとしてのイコライザーいじりは出来ないのです。ボーカリストの周波数の個性が分からなくては、それを引き立てる音の挙動は決まりません。主役が丸いおかずなのか、四角いおかずなのか、それによって用意するスペースは変わって当然です。

見落としがちな点

今っぽい音づくりで見落としがちなのは、高音域の作り方です。

高音域、もしくは超高音域を何で構成するかで印象は変わります。
シンセ音の高音域を強調することで全体を明るくするとパキッとした印象になりますし、リバーブの高音域で明るくすると柔らかい印象になります。
また、ボーカルの高音域で明るくすると、息づかいが聴き取りやすくなり主役感が増します。

また、最近ではミックスをアシストしてくれるプラグインも登場しています。

例えば、iZotope社のNeutronには、「Mix Assistant」と呼ばれるA.I.による自動ミキシング機能があります。ただこれにはやはりまだ限界があるように感じます。

ただ、Neutronの「Track Assistant」という機能は、ミックスに迷っている時に頼りになります。
これは、各トラックの音をA.I.が聴き取って、わずか10秒ほどで自動的にEQやコンプレッサーを設定してくれる機能です。いったんこれで音決めをしてみて、そこから好みのパラメーターに調整するということは、実際の作業中によくやります。
プロのエンジニアさんからも、そういう意見を聴いたことがあります。ひとりで悩むより、誰かの意見を聞きながら作業をすると楽しく作業できます。A.I.の使い方として、理想的なのではないでしょうか。

またiZotope社のRelayというプラグインでは、トラック毎の周波数の重なりを教えてくれます。
基本的には耳で聴きながら作業するべきなのですが、迷った時にはこのやり方も頼りになりますね。

以上、是非参考にしてみてください!


<谷口尚久 プロフィール>

13歳で音楽指導者資格を取得。東京大学経済学部卒業。学生時代からバンド活動を始める。
自身のグループで高橋幸宏プロデュースのアルバムを2枚発表。
同時期に作詞・作曲・編曲家としての活動も始め、CHEMISTRY・SMAP・V6・関ジャニ∞・SexyZone・中島美嘉・倖田來未・JUJU・TrySail・すとぷりなど多くのアーティストのプロデュース・楽曲提供、また映画やドラマの音楽も多数担当。
東京世田谷に Wafers Studio を構え日々制作。
個人名義では「JCT」「DOT」「SPOT」をリリース。

最新作は、自身が主宰するレーベルWAFERS recordsによる『WAFERS records YELLOW』
辻林美穂と川畑要(CHEMISTRY)をフィーチャーした、歌ものポップス。

WAFERS recordsでは、プロジェクトに参加して下さるボーカリストを探しています。
お問い合わせはwafersrecords@gmail.comまで。

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